紙をめぐる話|紙の生まれる風景 No.33
大子那須楮(だいごなすこうぞ) |
すーっ、すーっ、すーっ。
小包丁の刃先を流れるように滑っていく楮の皮。
表面に付着した黒や茶色の皮がみるみると剥がれていく。
滑らかに剥ぐコツは、小包丁ではなく
楮自体を引っ張ることだという。
少しずつではなく、一気に引っ張る。
その思い切りが大事。
しかし力を入れすぎると傷が付き、
弱すぎると削り取れない。
その絶妙な塩梅の動作を、
実に自然に軽やかにこなし続ける。
そうして何トンもの膨大な量の表皮取りをするが、
大子那須楮というブランドの品質基準をクリアする白楮は
1束15キロの黒皮から3.5キロほどしか取れないそうだ。
仕上げに細かな汚れや屑を丁寧に取り除き、
束ねて天日干しする。
「ここの楮は光っている。だから紙も光る」
大子那須楮をそう表現する人もいると言うが、たしかに。
作業後の皮は太陽に照らされ、
まぶしいくらいに白く光っていた。
初出:PAPER'S No.68 2025 冬号