紙をめぐる話|紙の生まれる風景 No.21
王子製紙 苫小牧工場 |
ここはかつて、小さな漁村だった。
北海道、苫小牧。明治中期の人口はわずか数百人。
それが今では17万もの人々が暮らす道内有数の
産業都市へと発展した背景には、
苫小牧工場の躍進がある。
創業は1910年。それまで輸入に頼り切っていた洋紙を
国内自給に刷新するという
高い志から生まれた工場だった。
広大な平野、繁茂する森林、清浄な水を豊富に湛えた湖、
水力発電に最適な川、全国につながる海、
そして人々の意志。
大規模な紙づくりにとってこの上なく恵まれた地形と
自然と共存しながら最大限に活かす知恵や信念を両翼に、
苫小牧工場は世界最大規模の
製紙工場へと飛躍していった。
人もまばらな村は、
やがて世界に誇れる産業拠点になった。
今日も苫小牧の空に向かって伸びる幾筋もの白煙。
それは遙かな高みを目指し
向上を続けた歴史の象徴でもある。
初出:PAPER'S No.56 2018 春号
※内容は初出時のまま掲載しています