紙をめぐる話|紙の生まれる風景 No.13
日清紡ペーパー プロダクツ |
紙が命を成す瞬間である。
水に希釈されたパルプが回転する円網によって漉され、
ひたひたとフェルトに張りつきながら
水上へ引き上げられる。
まだら模様のパルプは徐々に密度を濃くし、
しまいには茶褐色だったフェルトが平滑な白に覆われる。
その光景はまるで、赤茶けた剥き出しの地面が
降雪によって静かに白く染まっていくようだ。
遥か遠くの森から運ばれてきた木材繊維が、
ここではじめて「紙」の原形を現す。
こんもりと水分を含んだ湿潤なその紙は、
しかしここではまだ生まれたばかりの裸の赤ん坊である。
二本の指でつまめばすっくとそそり立ち、
ぴんと張りのある成熟した紙になるまでには
ここからまたいくつもの過程を経なければならない。
初出:PAPER’S No.48 2014 冬号
※内容は初出時のまま掲載しています