紙をめぐる話|コレクション No.36

PÉPET
紙なのか、生きものなのか

そっと撫でると、ふんわりゆらゆら、
まるで生きているように動きます。
ペペットは、紙から生まれた手乗りのペット。
紙といえばこういうもの、というイメージを、
やさしく打ち砕いてくれるプロダクトです。

初出:PAPER'S No.67 2024 夏号

デザインの話 
長尾昌枝(株式会社竹尾 ペーパープロダクト事業部)

文具店で紙売り場を担当していた頃、棚に積まれた紙の断面をよく眺めていました。商品の紙を入れ替える度に棚の表情が変わり「今日の色、好きだな」なんて感じていたことがPÉPET(ペペット)のイメージの原体験になっています。作品として個人制作をはじめた初期は、すべての紙を接着していました。でも紙の棚で見たような色の鮮やかさが出なくて。そんなとき、作業中に紙に糸を通して束ねたところ、紙と紙の間の空間に影が生じて、色の美しさと独特の動きや手触りが生まれたのです。その時の作品は紙わざ大賞(特種東海製紙が主催するペーパーアートのコンペティション)をいただけたのですが、手づくりなので商品化はできず、そのまま20年の歳月が経ちました。その後竹尾に入社し、新製品のアイデアとしてPÉPETを提案しました。私が所属しているペーパープロダクト事業部はステーショナリーなどの紙製品をつくっていますが、機能ではなく、紙の手触りや色、動きそのものを楽しめる製品があってもいいのではと考えたんです。何十年も時を重ねた愛蔵書のように、経年変化とともに味わいが出て、愛着をもって長くそばに置いておきたくなるような存在になってほしいと思います。

 

つくりかたの話

PÉPETは412枚の紙を重ねてできています。自主制作の頃は一枚一枚コンパスカッターで切っていて、今回の商品化のためにも数え切れないほどの試作品を制作したので、たぶん私は、日本一コンパスカッターで円を切り抜いた人間だと思います(笑)。大変だったのは、顔とお尻の部分。ボディはパーツさえあればできますが、紙の束の最初と最後のところの収まり方などの調整がとても難しい。軸材に使っている水引の結び具合を数ミリ締めすぎるだけでも紙の隙間が詰まって手触りが変わってしまいますし、ゆるすぎてもシルエットが変わってしまう。手にしたときのはかなさ、ギリギリのたおやかさが魅力なので、微妙な加減が生命線です。円の大きさは120種。以前はコンパスカッター100本以上を手作業で0.5mm刻みに揃えて円を切り出していたのですが、量産化にあたっては抜き型を使用するので、円の直径をより自在に設定できます。製造担当の方にもアドバイスをいただいて、0.5mm刻みと0.7mm刻みの円を組み合わせたなめらかなカーブが生まれました。紙はNTラシャの四六判130kgです。シルエットのモチーフは南国の鳥や洋梨なので、配色もそのイメージでNTラシャの豊富な彩りを活かしています。ただ、平面だと光を反射して白っぽく見えた色は、層で見ると影が落ちて深い色に見えます。色の印象が変わるんですよ。重ねてみて初めて色合いが分かるので、必ず立体にしながら色を検証していきました。昔、実家で小鳥を飼っていたのですが、小さな雛を手のひらにのせた時の「命が動いている」という感じを今でも覚えています。試行錯誤を積み重ね、生きもののような動きや手触りを追求したのは、その微弱で愛おしい感覚や記憶の現れなのかもしれません。

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