紙をめぐる話|コレクション No.29

空中で咲く紙の花
興福寺中金堂落慶法要散華
まわり花

諸仏を供養する法要で、寺院の屋根から撒かれる散華。
ほとんどのものは蓮の花びらをかたどっていますが、
「まわり花」は空中を舞っているときにだけ
花の姿が現れます。
その美しい舞いざまは、伝統的な散華が
新たな領域に向かって羽ばたいているかのようです。

初出:PAPER'S No.60 2019 秋号
※内容は初出時のまま掲載しています

デザイナーの話
三澤遥さん、本山真帆さん
(株式会社日本デザインセンター 三澤デザイン研究室)

初めて散華を見たときの光景が「まわり花」の発想の源です。無数の紙が一瞬の間だけ空中を舞い、地面に降り立った瞬間に消えてしまう。そんな儚さに魅了され、その舞いざまを美しく研ぎ澄ましてみたいと思いました。平面の紙である散華を立体的にしてみたのは、ありがたさやめでたさを、生き生きとした「体験」として感じてもらうため。物というより空間をつくる感覚です。空中を回転することで円錐状の残像が発生し、花の姿が現れるのが「まわり花」の仕組みですが、タンポポのように風にのって移動する種子をたくさん集めて飛び方の参考にしながら、長さや厚みなどをミリ単位で検証し、地道に試作を重ねていきました。誰でも簡単に組み立てられるように、一枚の紙のパーツを手順通りに折り畳むだけで完成する構造になっています。紙にタントを選んだのは、華美すぎない素朴さがあり、屋外の環境に耐えられる張りをもっているからです。色は秋空に調和し、空中で色同士が喧嘩しないよう配慮しました。製造の過程で苦労したのが抜き加工です。位置がずれると色が分断され、強度や飛び方も変わってしまうため、その精度は生命線でしたが、岡村印刷工業さんの精緻な仕事に助けていただきました。実験的に始まった「まわり花」は、2018年10月、興福寺中金堂落慶法要のための散華として散布されました。大舞台でお披露目されたことは得がたい体験でしたが、このプロジェクトは始動したばかり。糊を使わずにつくれる構造や大きなサイズなど、さまざまに構想を膨らませて、これからも紙の飛行のデザインの可能性を探っていくつもりです。

 

製造担当者の話
岡村元嗣さん(岡村印刷工業株式会社 代表取締役会長兼社長)

岡村印刷工業では美術印刷の工房を持っており、オリジナルの散華を奉納しようと、森田りえ子先生を始め、様々な日本画家の方々の絵をあしらった散華をつくってきました。それを10年近く続けていたのですが、大阪で開催されたTAKEO PAPER SHOW 2014「SUBTLE」を拝見した際、三澤さんの作品「紙の飛行体」が面白かったので、「新しい散華を考えてくれませんか」とお願いしたんです。散華に何か新しいものを吹き込んでみたい。可能かどうかわからないけど、三澤さんなら何か考えてくれるかもしれない、と思ったんですね。それから4年。もう忘れているかな、と思っていた頃、ご連絡をいただきました。いただいた原型は3つ。構造のある複雑な形でしたから、とにかくたくさん試作をつくって撒いてみたのち、興福寺に持ち込んでみました。最終的に決まったのが、この最も可憐な案です。形をつくるのには、お寺の方や学校の生徒さんたちのお力も借りています。実際に撒いてみると、遠くから見ると見えにくいとか、もっと遠くに飛ぶように推進力を増したいとか改良すべき点も見えてきました。また、種を入れて飛ばしてみたらどうだろうとか、都会のビルやタワーでも撒いてみたら面白いだろうとか、あれこれと考えるのも楽しい。三澤さんのおかげで散華の新しい可能性が生まれたので、もっといろいろな形が出てきてもいいと思っています。日本固有の美しいものを私たちの時代につくれるということは、本当に嬉しいことです。

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