紙をめぐる話|コレクション No.23

新しい視線で
本を魅せる
太田泰友のブックアート

デジタル技術が進み、本とはなにかが問われるいま、
「本を構成する要素をそれぞれ突き詰め、
それらが交差して現れるのがブックアート」
だという太田泰友さん。
本という形式をさまざまな角度から解体し、再構築し、
本そのものの美しさ、おもしろさを引き出しています。

初出:PAPER'S No.54 2017 春号
※内容は初出時のまま掲載しています

アーティストの話
太田泰友さん(ブック・アーティスト)

学生時代から本という形式に興味を持っていた僕は、造本の研究を深めるためにドイツに渡りました。そこで出会ったのがブックアートです。もともと本は情報を伝えるためのメディアですが、現代では情報を流通させるという目的だけなら電子書籍やデータでやりとりしたほうがずっとスピーディでローコストです。しかし一方で、本には物体として存在する価値があると思うんですね。
もともとテキストがあってそれを読者に届けるために行うブックデザインに対して、ブックアートは、テキストやグラフィックやタイポグラフィ、綴じ方などの要素を構成し、それらがひとつに交わることで、あるひとつのコンセプトを体現するものというイメージで捉えていただければいいと思います。紙もそのうちの重要なひとつの要素です。
額装の「Book-Composition」シリーズは、本を空間に配置するという行為として考えた作品です。額に入れたのは、絵画のように壁に“掛ける”という行為が発生することを狙っています。(続く)

《Book-Composition 7》2016年

(続き)本にぴったりの大きさの穴が壁にあいていて、その穴のためだけにつくられた本を置く。そのことによって実際に本がモノとして存在するボリュームを感じられると思うんです。紙が折られ、折丁になって積み重なることで、紙はもう本に見えてくる。そのいちばん象徴的な部分が背です。エジプトの古い製本技法であるコプティック製本のような編み目が見える綴じ。僕はこのかがり方が結構好きなんです。リアルに編んでいるという感じで、背の印象が急に味わい深くなるんですね。綴じというのは本の完成形からみれば一部でしかありませんが、改めてみると表情があっておもしろい。このシリーズでは、チップボールをサガンGAで包み、蝋引きした麻糸で綴じています。
ブックアートの世界では、本を作り上げている様々な要素をどれだけ作品として昇華できるかが勝負です。ブックアートは工芸的に手でつくっていく技術が基本となりますが、それだけでは、珍しい古い技術の再現ということだけになってしまいがちです。僕は、工芸的なアプローチをしつつも、そうした技術を新しい意識で使い、新しいテーマやコンセプトを体現していかなければと感じています。これまで蓄積されてきた造本技術の価値を100%感じつつ、理解しつつ、造本の世界とアートの世界を接続していきたいと思っています。

《Vom sinnvollen Abstand und dem notwendigen Zusammenhalt(有意義な距離と不可欠な結合について)》2014年

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