紙をめぐる話|コレクション No.20

本であり、
建築であり、
決闘であり。

切りっぱなしの布地のようなギザギザ小口の本や、
赤ん坊の手のひらにも収まりそうなほど極小サイズの本。
イルマ・ボームさんが手がける本はいつも
まるで生まれて初めて本に触れるような瑞々しさと、
ブックデザインが秘める底知れぬ潜在力を
私たちに感じさせます。
その広大無辺な発想はどこからやってくるのか。
THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015で行われた
特別展のために来日されたイルマ・ボームさんに
お話をうかがいました。

初出:PAPER'S No.51 2015 冬号
※内容は初出時のまま掲載しています

左:Nina Stritzler-Levine編
『Sheila Hicks: Weaving as Metaphor』
発行=Yale University Press, 2006
155×220×58mm、416ページ、上製本

右:Irma Boom著
『Irma Boom: The Architecture of the Book』
発行=Lecturis, 2013
44×55×30mm、800ページ、並製本

ブックデザイナーの話
イルマ・ボームさん

私の本づくりの秘訣を一言で表すなら「姿勢」だと思います。これまで手がけてきた300冊以上の本はすべてまったく異なるデザインですが、つくる際の心構えはつねに一緒でした。それは、他のどんな本にも代えられない、依頼者のためだけの本をつくること。だから私はいつも慎重に相手の話に耳を傾けます。編集者として初期の段階からプロジェクトに関わり、周囲の人たちと協同しながら、依頼者と同じ着地点を見据えて仕事をしてきました。
たとえば写真にあるシーラ・ヒックス(テキスタイルアーティスト)の本。この本の肝はもちろん小口ですが、最も重要な点は私が粗い小口が好きだからこうしたのではなく、この仕様が彼女の作品と韻を踏んでいるということです。「良い織物にはきれいな端が必要不可欠」と語った彼女の言葉がとても印象的だったので、作品集自体にもその特徴を生かすべきだと考えました。写真の赤い豆本は、私が初めて大きな個展を開いた際につくった私自身の作品集です。 私は制作の過程で作品を俯瞰して眺めるために、必ず自分の手で小さな模型をつくります。小さな本は大きな本よりずっと難しい技術を要しますが、せっかく自分のカタログをつくるなら私がいつもしているようにデザインしようと思い、このかたちに至りました。(続く)

 

(続き)これまでにつくってきたどの本にも根底にはシンプルなアイデアがあり、それを妥協なく体現してきました。そしてどの本にも試練がありました。新しいものづくりには大概、闘いが起こるものなんですね。ときにはそれが拷問や地獄にさえ感じることもありますが、挑戦しない限り何も生まれませんし、時間をかけた分だけ必ず価値のある本になると信じているんです。
すべての本は文化の容れ物であり、また本をつくること自体が文化の一部ですから、紙の本にはこれからも未来があると考えています。紙の本は一度綴じられたら変えられません。だから内容を不変に遺す媒体としてますます意味を持つようになるでしょう。インターネットが流動的なだけに。それに電子ブックは平面的でPDFのようですが、紙の本は立体で建築的です。私の作品集のタイトルも『The Architecture of the Book』。中身を物質的に反映できるのも紙の本のいいところです。何より私は紙が大好きなんですよ。 学生の頃はベッドの隣に紙サンプルを置いて寝ていたくらい。 寝る前の読み物として紙サンプルをチェックしていたので、そらで覚えていたほどでした。日本の紙も本当に美しい。欧州に比べてより洗練され、特別感がありますね。唯一の難点は、アムステルダムと日本が離れすぎていて手に入れにくいこと。この問題、ぜひとも私たちと竹尾で解決しましょう!

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